怖イ話 短編

「もらっていくからな」

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この話は今から数十年前、僕がまだ小学生だった頃に体験した話です。

一学期の最終日、担任が明日から夏休みに入るけど遊んでばかりじゃなくて、宿題も終わらせるようにとホームルームで話していました。

僕の心の中では

「夏休みは川に泳ぎに行ったり、山に行ってキャンプをしたり、お祭りに出かけて綿菓子買ってもらって……」

といった具合に、遊ぶ計画ばかり立てていました。

学校が終わって下校中、後ろからクラスでも仲のよいタクヤが声をかけてきました。

タクヤ「明日、午後からプールに行くんだけど、おまえも一緒に来ないか」

僕も明日は特別な予定がないので、二つ返事でプールに行く約束をしました。

翌日、快晴の空を見上げて

「さぁ、夏休み初日はタクヤとプールで思う存分に遊ぶぞ!」

と張り切って家を出た僕は、待ち合わせ場所だった神社に向かいました。

プールでタクヤと遊ぶのが楽しみで、急いで待ち合わせ場所に向かったためか、着いたときにはまだ誰もきていませんでした。

「ちょっと早く着きすぎたかな」

そう思いながら神社の向かいにある駄菓子屋に入って、お菓子を選んでいるとき

「……、きを、いっ、だ」

背後から何かの呟き声が聞こえてきました。僕は最初、気にしていませんでしたが、さっきよりも少し大きな声で

「おい!気をつけろ、いっちゃだめだ」

と、聞こえてきました。僕はとっさに後ろを振り返ったのですが、そこには誰もいません。

「誰もいない……。きっと外からだ」

僕がその声の主を探すために店を飛び出したとき、タクヤとマサトがやってきました。タクヤは僕を見つけると

「おまえずいぶん早いなぁ、そんなにプールで遊びたかったのか」

って言われたけど、プールで遊ぶんじゃなくてみんなで遊べるのが楽しみだったんです。

僕はさっき聞こえた声のことは忘れてしまい、タクヤたちとプールへ向かいました。

水着に着替え、準備運動も済ませ、プールサイドでタクヤとマサトを待っていたときです。

背後から

「気をつけろ、気をつけろ、気をつけろ……」

かなりはっきりと聞こえたんで、タクヤかマサトが僕を驚かそうとしていると思い

「やめろよタクヤ、ふざけるなって」

そう言いながら振り返りましたが、あたりに誰もいませんでした。

僕が周りをキョロキョロしているとタクヤが

「どうした?」

マサトといっしょに、こちらに向かって歩いてきたのです。

「タクヤたちじゃないとしたら、さっきの声はいったい……」

僕は背後に寒気を感じて、その場から動くことができませんでした。

タクヤは泳ごうと誘ってきましたが、僕はさっきのことが気になってそれどころではありません。

マサト「俺、先にいってるぜ」

そういうとマサトは一人で、さきにプールに入って泳ぎだしたのです。

それをみたタクヤも

タクヤ「俺たちも泳ぎに行こうぜ」

と、手を引っ張るのですが、僕は腰が抜けてしまったかのように立ち上がることができません。異様なくらい肩が重く、手を上げることさえできませんでした。

「ちょっと気分が悪いから、後から入るよ」

そういうとタクヤは、マサトを追いかけてプールに入っていきました。

僕はせっかくプールに来たのに、得体のしれない声と現象に

「今日は最悪だよ」

と、空を見上げると、黒い影が僕を覗き込んでいたのです。

「ひぃ!」

と、声にならない悲鳴を上げて、その場から逃げようとしましたが体がいっこうに動かないのです。

するとその影は

「もらっていくからな」

というと、その黒い影は消えました。なんだったんだろうと思った時

激しく肩をゆすられ、我に返りました。そしてタクヤが泣きながら

「マ、マサトが!マサトが!!溺れて……」

反対側のプールサイドを見ると人だかりができていて、そこには横たわったマサトが監視員に人工呼吸されているところでした。

「何があったんだ……」

そしてタクヤに聞こうとすると、突然タクヤは小学生とは思えないほど、地を震わすような低い声で

「もらったぞ……」

と、ボソッっとつぶやくと、気を失って倒れこんでしまったのです。

その時、ちょうど救急車が到着し、マサトは病院へ搬送されてしまいました。

僕はすぐにタクヤを起こして更衣室へ向かい、マサトの家と自分の家に連絡をしました。

そして僕はタクヤに

「何があったんだ!」

聞くと、普通に泳いでいたら突然マサトが視界から消えたといいます。そしてプールの底を見ると、マサトが沈んでいたのです。

タクヤ「でもな、その時に俺、見ちまったんだよ」

そういうと顔色はいっきに青ざめ、歯をがちがち鳴らしながら

「黒い無数の手がプールの底から出てきて、もがくマサトを掴んでいたのを」

そういうとタクヤは、右足を僕に見せて

「俺も、もしかしたら連れていかれたのかも」

足には誰かに相当強く握られた跡が真っ赤に浮かんでいたのです。

その後、両親からマサトが死んだことを聞かされ、小学生最後の夏休みは悲しい思い出となりました。

そうそう、タクヤとは今では家族ぐるみで付き合いがあるんですけど、会うと必ずマサトの話題になります。

あの黒い影の正体は何だったのか、タクヤの足をつかんだ手は何だったのか、疑問ばかりで答えは出てきません。

僕に気をつけろと言ってくれた声、あれはいったい誰だったんでしょうか。

投稿者:タオタオ(Twitter/小説家になろう

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