怖イ話 短編

「ごりょうさん」

4.7
(6)

 徹は会社の夏休みを利用して実家に帰った。
 元々は恋人の里美も連れてくるつもりだったのだが、直前になって「用事がある」とのことでキャンセルとなった。
 遠回しのプロポーズがあっさりと断られてしまい、徹の気持ちは少し落ち込んでいた。
 里美からは連絡はあるものの、少し元気がないようでそれも気がかりだった。

 徹の実家は山間の小さな村。都会に慣れた体に緑が心地よく、少し気分も晴れた。
 駅前から乗ってきたタクシーを降り、玄関にはいると祖母がにこやかに出迎えてくれた。
 徹はひとりっ子。父と母、そして祖母と住んでいた。
 家族仲は大変良く、祖母も初孫である徹を大事にしてくれていた。
「おかえり、無事に帰ってこられるように、ごりょうさんにお願いにいったんだよ」
 と、祖母。
 「ごりょうさん」とはこの村の氏神だ。
 なぜそう呼ばれているかは、その時の徹はまだ知らなかった。
「子どもじゃないんだから……」
 と苦笑いしながら徹は答えた。

 仏壇に線香を供えて手を合わせていると、仏間に祖母が入ってきた。
「あんた、なんか困ったことになっておりゃあせん?」
「いや? 特には。どうして?」
「んー、ごりょうさんにご挨拶にいったらねぇ……」
 と、言葉を区切った。
 この地域の老人たちは、なにかあるとそこへ行く。
 なんでも、何かを願いにいったその夜にいい夢を見ればそれはうまくいき、悪い夢を見ればよくないことが起きるらしい。
 とはいえ、そんなことを信じているのは祖母の世代くらいで、両親の世代くらいからは迷信のように扱われていた。
「まーた、『ごりょうさん』かぁ」
「徹のことをお願いにいったらね、それはもう怖い夢を見てね」
「大丈夫だよ、安心して」
 夕食の席でその話をすると、両親は笑っていたが祖母は不安そうだった。

 翌日。徹は「ごりょうさん」のところへ出かけた。
 懐かしい。ここではよく遊んだ。夏祭りで子どもたちが集まって拝んだのも覚えている。

 ―ふと、小さな看板が目に入った。

 その存在は知ってはいたが、読んだことはなかった。
 よくあるご祭神の名前などが記してあるやつだろう、と読んでみることにした。
 しかし、長い年月に晒されたそれはほとんど消えかけていた。
 「御霊」と「贄」の文字だけがほんの少し見えた。
 御霊、という言葉なら聞いたことがある。非業の死を遂げたものを神として祀ることで災厄から逃れ、平安を祈るものだ。

 徹は家に帰り、さっそく祖母にそのことを聞いてみた。
 それが以下の話だ。

 昔、その村に祈祷師の一家が住んでいた。
 ある年のこと、雨が続いたことがあった。
 雨が続くと農作物が傷んでしまう。自給自足に近かった当時、それは死活問題だった。
 人々に懇願された祈祷師は、末の子どもを川へ流した。
 すると翌日雨は止んだ。しかし、その後祈祷師の一家ではあいついで人が亡くなり、やがて絶えた。
 祈祷師の子を流すことを歓迎した人もぽつぽつと死んでいった。
 恐れをなした村人は、祈祷師の家の跡を神社とし、末の子を御霊として祀った。

 ―ということらしい。
 それから現在まで、その神社の信仰は続き、いつしか祖母が言うような「夢でのお告げ」が人々の間に浸透していったのだという。
 
「子どものころ、夏祭りで拝んだだろ?」
 と祖母。
 毎回子どもたちが集まって拝む。その後に餅を配られるのだが「必ず今夜のうちに食べること」と言われてきた。
「あれは、言ってみれば神饌なんよ」
「『しんせん』?? あぁ」
 漢字が頭に浮かんだ徹は納得した。
 祖母が言うには、拝む子どもたちは贄のようなものらしい。
 そして餅を配り、それを食べることで「連れていかれないように」する、という意味だったという。
 とはいえ、翌日に食べた記憶もあるし、友人に譲る子どももいたので「おまじない」のようなものではあるだろう。
 あまり気持ちのいい話ではないので、子どもたちには詳しい話は聞かせていなかったそうだ。
 また両親の世代は迷信だと思っているため伝えておらず、で徹たちの世代には詳しい話が伝わっていなかったようだ。

 今まで知らなかった地元の風習に不思議な感慨を持ちながら、徹は都会へと戻った。
 里美から借金の依頼があったのは、その数日後のことだ。
 なにか嫌な感じがして断ったのだが、大いに揉めて結局別れることになった。
 共通の友人が後に話してくれたことによると、彼女は数人から金を借り、どこかへ逃げたらしい。
 結果的には「ごりょうさん」が告げたことが起こった、ということになる。

 話はそこまでで済み、徹はどこかほっとした。
 しかし、ひとつだけ気がかりなことがある。
 祖母が言ったことだ。

―ごりょうさんには、毎年子どもを供えないとお怒りになるっていうんだけどね。
 最近は子どもが減ってきたし、若い人もやる気がないし、祭りがいつまで続くか分からないんだよねぇ。

投稿者:遠野麻子(Twittercomicoノベル
  

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