中編 怖イ話

理不尽な呪いの地

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 月が空に高く上がり漆黒の地に光を落とす頃。森に生きるものは息を潜め、日の出に目が覚めることを祈り深い眠りにつく。
 カガリと三堂は崖の上に座り公園跡地のような敷地を見下ろしていた。

「誘導するのも、信じる阿呆もよくやるよ」
「藁にも縋る思いってね」
「……これ、俺の代わりに持っていきな」

 三堂は日頃、肌身離さず持っているライターを渡した。カガリは刻まれた絵を軽くなぞり、ライターを握って数秒間目を閉じた後、ポケットに入れ「よし、行くわ」と宣言をし三堂の前に立った。
 これから1人で落ちる敷地は行方不明者、死亡者が多発する場所。
 この場所から人を突き落とし落ちた子が消息不明、または命を落とせば崖上に残った側の願いが叶う。そんな理不尽な噂と共に、この地で肝試しがよく行われている。
 何故そんな噂が出て続くのか。
それは元を辿れば簡単な昔話。ある夫妻が死んだ愛娘を生き返らせようと、等価交換も考えず禁忌に手を出した事が発端。今も愛娘の形をした魔物がこの敷地内で野放しになっている。
 そこに目をつけたカルト教団が、この地には力がある。簡単な呪いなら素人でも確実に叶うと広めたのが原因。

「いいか、痕跡を見つけて呪いの流を壊すだけだ。そのライターは直接返しに来いよ」

 喝と祈りを込めて、三堂はカガリの背中を思いっきり叩き落とした。  
 一方でカガリは自分の宣言を合図に落ちたことで、受け身が取れないにも関わらず擦り傷程度で済んだ。上と違って天気もよく月明かりが在るのに暗く数歩先もほぼ見えない。

「(懐中電灯くらい欲しい)」

 砂利に岩、木の根に躓きながら目印になりそうな物を探して進んでいると、白い何かが正面から転がってきた。

「( 蝋燭……なんで?)」

 足元まで不自然に転がって来た物を拾ってみてみれば使いかけの蝋燭。火を点せば少しだけ視界が広がる。火が消えないよう手で覆いまた歩きだすと、歌っているような囁き声が複数聞こえた。
 立ち止まって音が聞き取りやすい方向を見つめていると。子供に近い姿をした異様なモノが、自分を取り囲むように距離を詰めてきていた。

「(これか、だよね罠だよね)」

 障られたら呪いの一部になる。蝋燭を吹き消し投げ捨て身を翻してカガリは走り出した。これからが本番。御互いに存在を賭けた隠れ鬼が始まりだ。
 森が眠りについた頃、陰惨な遊びの準備が調い奴らは動き出す。呪の流れを止めるには使われたもの全てを処分しなければならない。
 今宵は、あの子が上手く入り込んだ。禁忌に手を出し飲まれた愚か者を葬るいい機会になるかもしれない。どちらが勝つか今回ばかりは見物だね。

 あれは生者だけが点せる中で最も温かい燈籠。
星が煌めくような命の輝きはどれだけ求めても、私に触れることも取り戻すことも叶わない。すぐそばまで来るのに……不公平でしょ? でもあの子は今までの子とは違うのね。
だったらあなたの輝き私に頂戴。ここへ来たあなたには、もう必要のない物なのでしょ? _

「どうしよ、どうやる…… 」

 カガリは蝋燭を投げ捨ててからしばらく走り続けていた。
けれど奥に進めば進むだけ広がっていくように、どこにも同じような光景が続く。

 追手が単体なら木の影や茂みに身を潜め、隠れてやり過ごすことができる。 しかし相手は複数。この状況で身を潜める為に自分の視界から追手を一瞬外して、変な場所に立ち止まって視界外から奇襲をかけられたらひとたまりもない。

 大分息も苦しくなってきて、足元を見たり前を見たりを繰り返してると、正面からも白い子供向かってきていることに気づいた。
 悲鳴を上げる間もなく無理やり左手側に体の向きをかえて、とっさに選んだ方向の傾斜はどう見ても登りにくい傾斜。もう前にも後ろにも行けないのなら、根っこや葉っぱを手当たり次第に掴んでよじ登るしかなかった。

 上に着くと月の光が薄っすらと差し込む開けた場所に来た。
 幸いにも目の前に何もいなかった。少し明るいこの場所でなら上手く隠れて少しは時間稼ぎができそうだ。
 急いで目に映ったシルエットを少し見渡して何があるか予想する。 骨組みの建築物、石造りの山、車。数十秒で判別できたのはこのくらいだった。

「(くるま、車! あれならすれ違いで撒ける! )」

 石山を乗り越えている最中に気づいたことだが、この石山は焼却炉だったようだ。
可燃を入れるための扉は絞められ、取手の部分に何かが差し込んであるように見えた。
 探している痕跡かもしれないけれど今はそんな場合ではない。

「待てよ、さっきまで普通の車だったじゃん!! 」

 なんとか車の前まで来た。ただ、さっきまで見ていたよくある車ではなかった。
今、目の前にあるの大きな車は前輪が外れ横は大きく凹み、木にもたれ掛かるように潰れたバスの廃車で後輪部分は完全に土に埋まっている。

「うわ、やった…‥‥まずい」
 
 後ろからまた声がだんだん大きくなってきた。煉瓦など少しだけ高い囲いが目隠し代わりになって、まだこちらが見えていないのだろう。 ただ、その代わりカガリからも相手の様子が全く分からない。もう別の場所に移動するのは無理だ。

「おい、走れるならこんなん登れるだろ! 」
「えっ!? 」

 男の声がはっきり聞こえた。 見上げても姿は見えないが、木の葉の陰から腕が伸びていて存在を知らせるように木の幹を叩いている。もし罠だったら、次は上手く逃げられる保証はない。でも生存者の可能性も捨てきれない。
 三堂がいつか”追いつめられたときは勘だ”とよく笑っていた。だからカガリも勘を頼りに見えない相手を信じることにした。

「お願い! 」

 軽くその場で数回ジャンプをして助走代わりに。 勢いをつけてもたれてる車を走って登り、バスの一番高い位置でもう一度踏みきり、伸ばしてもらった手に何とか触れるとそのまま握って上に引き上げて木の枝に乗ることができた。

「ありが……」
「黙れ、来た」

 安堵してお礼を言おうとすると遮られた。 言われた通り黙って下を覗くと、車のすぐそばまで追いかけていたものが舐めるように車の周りを徘徊している。

「(3人? もっといたような……それに、どの子もなんで割れた仮面付けてるんだろう? )」

 暫く引き上げてくれた男のことも忘れて黙って下を見ていると、やがて下の子どもたちは時間が止まったかのようにピタリと動きが止まり、そのままゆっくりと消えた。

「……いったな。 で、お前はまだ正気か? 」
「なんとか。それより助けてくれてありがとう」
「困ったときはお互い様さ。で、お前は……その、落とされたのか? 」
「そう崖からダイブ。君、アレ見慣れてる、よね? 」

「まぁ、そうなるかなー。 何しろ夜が明けないもんだから、時間がどれだけ経ったかおいらには分からないんだ、たった数時間かもしれないし。ところで、さっきの多勢に無勢に見えても目で見てるのは1人。女王気取りのお嬢ちゃんは滅多に踏み込んでこないけど、また出くわしたら直ぐ隠れな」

「え、目が1人……? うん? 難しい話ちょっと理解するまで時間がるな」
「そうかい?」
「けど随分ここに詳しいね。君は名前なんての? あとその、どうやって人形とか見分けたの? 」
「それ内緒。それより、こんな恩着せがましいことあんま言いたくねぇんだが、助けた御返しって事でちょっと頼みきいてくれないか? 」

 思い出しながら語るかのようにすらすらと喋っていた男は、気まずそうに頬をかきながら話を逸らした。カガリは名前を訊かれたくないというより、自分の事を話すの嫌いなんだなと感じた。

「残念。お礼はしたいんだけど、あいにく返すって約束した預かり物しか持ってないんだ」

 カガリはお手上げというように、両手を上げると男は焦って首を横に振った。

「おいらそんな物欲かましてないって! あのな、この辺りに結構蝋燭が転がってるんだ。それ拾って来てここで火をつけて、おいらにくれないか? 」
「……その拾った蝋燭で散々追われたんだけど。まぁそれくらいなら引き受けようか、どのみちあの焼却炉には用あったし」

 とても簡単なおつかいを命の恩人に頼まれて“やりたくない”と云うわけにはいかない。 危ないところを助けてもらって、知らない情報までくれたこの男にお礼をしたいのは本心だ。

「本当か!? ありがとう、これでおいらも少しマシになるよ!」
「マシ? 」
「あー……違う、ちょっとした言い間違い。とりあえず交渉成立な! 」
「うん。 じゃぁ、さくっと蝋燭探しとあの焼却炉探索に参りますか」

 どうやらこの男は隠し事をしようと意識すればすればするほど、ぼろが出てしまうらしい。  気になる音場をこぼすが、触れられたくなくて隠している事を突かれるのは自分も嫌だったな。

そう、降りる直前にカガリは三堂に会ったばかりの頃の自分をほんの少しだけ振り返った。

投稿者:炭酸朱羽(Twitterエブリスタ続く

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