実話 怖イ話 短編

”見える人”が語る「霊と目が合った瞬間」

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 私が見える体質になったのは中学生の時、交通事故に遭ってから。
 見え始めた時はそんな状態に慣れていないし、割とはっきり見えてしまうので、生きている人間か、霊かの区別がつかなかった。
 そんな私も見える体質になってから五年も経過すると、あれは霊だな、あれはもう少しでこの世からさようならしそうだけどまだ生きてるなという区別がつくようになった。
 区別がつくようになってから、殊更に気を付けているのは、霊に気付かれないようにすること。以前目を合わせてしまった通りすがりの霊に、一週間居座られた経験もあり、絶対に目を合わせないようにしていた。しかし、人間疲れていると、不可抗力でそうした注意が散漫になることがある。

 それは、私が旅回りの小さな劇団にいた時のこと。お金の無い劇団だったので、少しでも旅費を浮かせようと、地方の安いユースホステルやボロい旅館に泊まることが多かった。男二人は同部屋、女の私は一応配慮もあって一人部屋に泊まっていたが、正直怖い思いをすることばかりだった。
 その日は一日で東北にある小学校や保育園を、三箇所回って公演をするハードスケジュール。どろっどろに疲れた私は、夕食やお風呂もそこそこに、二十一時には床に就いていた。止まった旅館が少し変わった部屋で、部屋の入り口は襖になっていて、右側のみしか開かない。左側を間違って開けたら、タンスがあって入れないようになっていた。何故かそのタンスに鏡が貼り付けてあって、突然現れた自分の顔に「きゃあ!」と小さく悲鳴を上げたほどだ。

 内側からかんぬき式の鍵をかける都合上、片側は出入りができないようにつぶしておく必要があったのだろうが、そこに鏡など設置しなくてもよいだろう。
 それでも、嫌な雰囲気のする古びた旅館は慣れっこになっていたので、内鍵を確認し、変な音が聞こえないようにイヤホンをして、布団にくるまった。

 寝入ってしばらく経った頃だ。突然身体が重くなり、目を覚ました。案の定金縛りにあっており、振りほどくことも面倒なのでそのまま解けるのを待った。しかし、その日は一向に解けないどころか、耳にものすごい人数の騒ぐ声が聞こえてきた。イヤホンで鳴っていた曲はいつの間にか終わっていた。それでも、両耳にカナル式の音を少々遮る仕様のイヤホンをしているのに、それはどんどん近づいてきてイヤホン越しにも相当な音量になった。

 ―――これはマズイ。

 今まで経験のない事態に、冬だというのに脂汗が止まらなかった。
 近付く声ははっきりとした輪郭を帯びてくる。

『お前が悪いんだ』

『私たちは悪くない』

『お前は生贄になっても仕方ないんだ』

『逃げてないで早く出てこい』

『どこに隠れた』

『お前のせいでこの村が祟られる』

 20~30人の大人の声が響き続け、何とか金縛りを振りほどいて起き上がろうとした。錆びついたようなギシギシした動きではあるが、首だけ動くようになり、何もいないことを確かめるため入り口の方を見た。
 すると、しっかり内側から施錠したはずの扉は薄く開いており、姿も顔も見えないのに、はっきりと恨みがましい女性の瞳だけが宙に浮いていた。初めのうちは何かわからなかった私は、それが瞳だとわかるまで凝視してしまった。

―――完全に目が合った。

その瞬間、声は聞こえなくなった。そして、辺りは一瞬にして静寂に包まれた。
しかし、まだ身体は動かないどころか、寒気がしてガタガタと震え始めた。慌てて動くようになった身体で、部屋に合った布団や毛布を10枚くらいかけるが、全く温まる気配はない。吐き気も催してきたので、廊下に出て共同のトイレに入ろうとしたところで、たまたま仲居さんに遭遇した。

「お客様! 大丈夫ですか?!」

 仲居さんは私を見るなりそう言うと、すぐに他の従業員を呼んだ。足早にやってきた女将が、『そう、菖蒲の間。鋭い子だったみたい』という声が聞こえたと思うと、私は気を失った。


 翌朝、荷物はそのままに、他の部屋で氷枕の上に寝かされていた私は、すぐさま体温計を渡された。ピピッと鳴った体温計には【39.9℃】の表示。部屋に荷物を取りに行くと、おかしなことに気が付いた。昨日タンスの裏に貼ってあった鏡が無くなっている。

「あの鏡は?」

 心配になって一緒に着いてきた仲居さんに聞くと、いよいよ青ざめて「そんなものありません!」と大声で否定された。
それ以上は聞かず、その日も公演があったので、仲間に肩を借りながら車に乗り込むと、運転手兼リーダーの仲間が、少しほくほくした顔でやってきた。

「お代、いらないってさ。客が風邪ひいたらタダになるんだな、この旅館」

 この男、非常に鈍感なので、熱さえなければ殴っていた。
 普段は三人でセットの建て込みをやっているが、二人で建て込みをしてもらい、本番だけ代わりが居ないので朦朧としながら芝居をした。幕が下りた瞬間バタン! と倒れこみ、気が付くとまた車に乗っていた。
 このままだと死んでしまう。そう思い、何処でもいいから仏具屋に寄ってほしいと伝えた。とある霊感体質の芸能人が、数珠を付けてから少し霊障がおさまったという話を聞いていたからだ。
 ちょうど昔からやってそうな古い仏具屋を通りすがったので、車を停めてもらうと、ふらふら店内に入ろうとした、その時―――

「お嬢ちゃん、ちょっと外で待ってて~」

 気の良さそうな店主が、こちらを制したかと思うと、ものすごい勢いで塩を掛けられた。

「……すごいの憑けてたね。うちの数珠、安いのも全部お祓いしてあるから、大丈夫だよ」

 そこで購入した数珠をして、都内の事務所に戻った時には、すっかり熱は引いていて、同じく見える体質の店主のいる仏具屋に寄れたことが、不幸中の幸いだった。
 後からその地を調べると、生贄の儀式が根強く残っていたそうで、馬の骨等が出土したと書いてあった。人骨の出土とは記載がなかったが、私は人が生贄にされていたんじゃないかと思っている。

 人間、疲れている時は、憑かれやすい。ふとした隙に、入り込んでくるのである。
 あれから私は、霊と思しきものと遭遇したときは、絶対に目を合わせないようにしている。

投稿者:匿名

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