怖イ話 短編

砂の中になにかいた

3.3
(3)

灼けつく太陽の季節、藤村は男女含めた友人数人と遊泳禁止エリアにいた。
危険な場所であるからか、彼ら以外誰もいない。
「なぁ、ちょっと埋めてくれよ」
泳ぎ疲れた藤村が、周りの友人に頼んだ。
波打ち際から少し離れた場所を選び、皆の手で砂を掻き出した。
ある程度掘り終わると、藤村は足を海側に向けて横たわる。

全身に砂が被さるとなかなかの圧迫感があった。
深く埋められたためか、手足がピクリとも動かない。
手足の末端に鼓動を感じ、血流の流れが分かって面白かった。
藤村を残し、友人達は泳ぎに行った。
太陽がまぶしく目が痛くなった藤村は、瞼を閉じ、波の音と砂の感触に身をゆだねた。

藤村の背中に突如違和感が走った。
腰骨の辺りから首の真下に掛けた背中全体だ。
何か這いずり回っているような感触で、気持ち悪い。
砂から腕を出そうとするが上手くいかない。
仲間達がしっかりと砂をかけてくれた証拠であるが、今は嬉しくなかった。
必死で動こうとし、「出してくれと」大声で叫ぶが、誰も気づいてくれない。
藤村の声は波の音にかき消されているようだ。
背中に蠢く異物感はいつまでも消えない。

どのぐらい繰り返し、助けを叫んだだろう。
叫び疲れた頃、藤村の顔に影が被さってきた。
誰かが顔を覗き込んでいるが、逆光のせいで顔が見えない。
濡れた髪が揺れている。
一緒に来ている明美だろうか。
しきりに髪の先から冷たい潮水が顔に滴り落ちてくる。

「おい、出してくれ!助けてくれ!背中が・・・」

磯臭い水滴を避けながら頼むのだが、答えがない。

「なんだよ、明美!」

あせりながら叫ぶと、背中が痺れ、皮膚感覚が失われていく。

「お願いだ明美!出してく・・・」

もう一度呼びかけようとした時、逆光の黒い輪郭の中心が露わになった。
友人の誰の顔でもなかった。
まず、顔が存在していない。
顔があった場所の肉がただれ、潰れている。
所々に白い粒や黒い点、黄色く細い筋に虫がいるが見える。
まるで、こねたハンバーグ種が腐って虫がたかっているようだった。
目も鼻も口もない。
藤村は叫ぶことも忘れ、ただ見上げることしかできなかった。

潰れた顔が動き、こちらに下がってくる。
磯のにおいが強まった。
動けない。
逃げられない。
相手の顔がそこまで近づいてくる。
叫ぶ藤村の口の中に磯臭い潮水が落ちた。
口と舌と喉が拒絶する味が広がり、藤村は喉が破れんばかりの絶叫を放った。

「おーい、どうしたの?」

風と波の音の合間、遠くから明美の陽気な声が聞こえた。
途端に顔が視界から外れた。
集まってきた仲間が、口々に「何を泣いているんだ」「どうしたんだ」と呆れている。
藤村は知らないうちに泣いていたようだ。

「いいから、ここから早く出してくれ!」

藤村が頼んでも、誰も何もしてくれない。
仕方なくさっきの出来事を涙混じりに話すが、仲間たちは笑うだけだ。
完全に冗談だと思っているようだ。
冗談ではない、藤村の口の中には磯臭い潮水のニオイがまだ残っている。

「そんなこと言っても、誰もいなかったって。まぁ、いいからさ・・・」

友人は藤村を砂から掘り出し、上半身を起こした。
仲間達の笑顔が一瞬で消え、青い顔をして藤村の背中を指さしている。
背中一面に貝の破片がびっしり突き刺さり、食い込むように皮膚へ突き立っていた。
藤村を埋めた時に、穴の中には貝殻一枚ないように友人が取り除いていた。
強い日差しの中、全員その場で黙りこくってしまった。

投稿者:みろく

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