怖イ話 短編

優助くん

4.7
(3)

 小学校から家に帰る途中、犬を見ました。
 汚い犬でした。教室のベランダの隅に溜まった泥みたいに、真っ黒い犬でした。そのくせ、黄だとか緑だとか、そんな妙に鮮やかな色が斑点になって、見ているだけで首筋が痒くなるような、とても汚れた犬でした。

 そんな犬が一匹、僕に背中を向けてふらふらと歩いていました。酔っぱらっているみたいでした。優助くんのお父さんみたいだと思いました。でも、その犬のあばらの浮いた姿は、どちらかと言えば優助くんに似ていました。

 そう思うと、何だか本当に優助くんにそっくりな気がしてきました。

 優助くんみたいに痩せているし、怪我しているし、泥で汚れているし。

 優助くんは僕の友達です。最近はずっと学校を休んでいるので、早く一緒におしゃべりしたいです。優助くんは色んな面白い話を知っているからです。優助くんは土日になると図書館にこもって本を読んでいるので、物知り博士なんです。

 優助くんの話で一番面白いのは、やっぱり怖い話です。口調はちょっと乱暴だけど、それでも怪談だとか都市伝説だとか、そんなのをすごく上手に話すんです。

 犬は良いぞ。人を呪い殺せる。

 どうするのかと聞いたら、土に頭だけ残して埋めて、ご飯をあげないようにして、お腹を空かせたところを、首を撥ねて殺すのだそうです。そうすると犬が化けて出て、嫌いな相手をやっつけてくれるらしいです。

 でも、お腹が減っていたんじゃあ力が出ないし、そんな腹ペコの犬がお化けになっても、怖くないんじゃないの。

 僕がそう聞くと、優助くんは首を横に振りました。何でも、お腹がぺこぺこになると、犬や人間は恐ろしいことになるんだそうです。

 お腹が減るとな。
すごくお腹が減ると、全部どうでもよくなる。

 風以外が喉を通り、胃に溜まるなら、自分の指だって食べるさ。それはきっと、犬も人も変わらないよ。

 でも、土に埋まったらそれもできないんだ。身動きが取れないんだから。

 そりゃ、化けるよな。

 優助くんはそんなことを言っていました。その爪の間には泥が挟まっていました。

 優助くんはいつも汚れているんです。家でお父さんと泥遊びでもしてるんでしょうか。学校に来なくなる前の日だって、汚れていたと思います。

 汚れた犬が、てくてくと歩いています。
 尻尾がゆらゆら揺れています。ずっと、後ろ姿しか見えません。犬は僕に気づかず、ふらふら進んでいきます。顔は見えません。

 あるのかな、顔。

 僕は、犬に顔があるのか気になりました。首が付いているか気になりました。後ろから大声を出して、振り返らせようかと思いました。でも、それは何だか怖かったので、ずっと黙っていると。

 犬が。

 立ち止まって。

 こちらに、顔を。

「優助くん」

 犬には、首がありました。顔がありました。

 優助くんの顔をしていました。

 優助くんは何も言わず、歯を剥いて笑うと、また歩き始めました。

 汚れた背中の向こうに、優助くんの家が見えました。

 ああ、お父さんに会いに行くのだな。
 何となく、そう思いました。

投稿者:シモゴエ(Twitter/ブログ

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